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今、日本経済は大変な事態に陥っている。
実体経済の低迷に加え、ここにきて金融不安、金融恐慌とも言える状況が重なり、まさに複合不況が発生しているからである。
日本には本来、経済の中でももっとも安定していなければならない銀行システムと、もっとも日々の振れが激しい株式市場が、機械的に連結してしまうという、世界でも稀に見る不健全な構造がある。
そのため、一度悪循環に陥ると抜け出せなくなる恐怖が人々を襲う。
景気が悪くなると企業収益が悪化し、それにつられて株価が下がる。
株価がある水準を割ると銀行の自己資本を直撃し、自己資本の足りなくなった銀行は慌てて貸し出しを控える。
銀行がお金を貸せなくなると景気はさらに悪化し、株価を直撃するといった悪循環である。
こうして、実体経済、金融システム、一般心理がすべてマイナスになったのが、一九九七年末からの日本経済の特徴であると言えよう。
しかも、日本に対する失望感から発生した「日本売り」は、円安を通してアジア経済を直撃した。
その意味では、今、日本はバブル崩壊以降で最悪の時期を迎えつつあるとも言える。
私はかなり前から、政府が方向転換しない限りこのような事態になるということを、テレビや多くの出版物を通して警告していたつもりだが、九七年の秋ごろまでこれらの警告は無視されてきた。
二月のY証券の自主廃業などをきっかけに、急に注目を浴びるようになり、私に対するマスコミの取材やテレビの出演依頼は激増した。
私の意見が注目を浴びた理由は、おそらく二つあると思う。
一つは予想が当たったことだが、もう一つは、以前私がアメリカの中央銀行であるニューヨーク連銀で、今の日本が直面しているような金融システムの問題に対応してきたという経験があるからだろう。
実際に私がニューヨーク連銀にいた三年強の間に、第一次メキシコ債務危機が発生、これがあっというまに中南米全域の途上国債務問題に発展した。
別の理由で大手銀行のCI銀行が潰れかかり、水面下ではS&L(貯蓄貸付組合)の問題が着実に拡大しつつあった。
この中でも、途上国債務危機では、メキシコにお金を貸していた全世界の金融機関数千行を、ニューヨーク連銀が率先して一つの護送船団にまとめ上げ、一隻の落ちこぼれも出ないよう細心の注意を払いながら、債務のリスケジュールを進めた。
なぜなら、「メキシコはデフォルトしている」と裁判所に持ちかける銀行がたった一行でも現れれば、法律上その裁判所は、メキシコから飛んでくる航空機も含め、差し押さえ命令を出さざるをえなくなり、そうなるとすべてのりスケジューリング努力が水泡に帰す危険性があったからである。
このとき、私はニューヨーク連銀のシンジケート・ローン担当であり、まさにこの作業の真っただ中にいた。
一方、CI銀行からは日本の銀行を含む大口預金者が逃げ出し、倒産寸前の状況になったとき、米国当局は四八時間以内にこの銀行を国営化して危機を乗り越えた。
このように金融危機に対する政策は千差万別であり、一つの方法ですべての状況に対応“できるというものではない。
最近、日本のマスコミでやり玉に挙げられている国営化も護送船団方式も、場合によっては危機回避に不可欠なのである。
これらの経験をもとに、私はここ数カ月、積極的に政策提言をしてきた。
多くの政治家の方々も事態の深刻さに気づき、次々と積極的な対応策を打ち出すようになった。
クルマの加速力を測る指標に、ゼロから四分の一マイルまで何秒というのがあるが、日本の政治家は金融安定化策に関して発案から法案成立、つまりゼロから三○兆円まで二カ月という、日本史の中でも最高速の政治決断を行なったのである。
言い換えれば、いかに事態の悪化が急速だったのかを物語っている。
政治家がリーダーシップをとって二兆円の減税や三○兆円の金融安定化策に代表される回避運動がとられた結果、現在は、事態は一応小康状態になっている。
本書でも指摘しているとおり、解決しなければならない問題は数多く残っている。
最近の政治家は実によく勉強しており、ここで指摘した問題点も、本書が出るころには解決されているかもしれない。
頂上にかなり近づいたとはいえ、最後の一歩で足を踏みはずせば、再び谷底に転落してしまう危険性は依然として残っている。
そのあたりを肝に銘じて、正しい政策を取り続けられるよう念願して止まない。
金融不安というのは非常に厄介な問題であります。
日本では戦後、金融不安は一回も起きていませんでしたが、海外ではこの間こういうことはたびたび発生しました。
私は一九八○年代前半、アメリカの中央銀行に身を置いておりました。
ちょうどそのときにアメリカ版住専問題として有名になったS&Lの問題が発生し、別の件でコンチネンタル・イリノイという大手銀行が潰れました。
以後、いろいろなことが起きました。
私はこの時期、ずいぶんこれらの金融問題に関与してきましたので、その体験をもとに、今の日本の状況をどういうふうに判断したらいいのかをお話しさせていただきたいと思いが間に合わなくなるとか、新しい預金者に出す口座番号までなくなってしまうという「パニック」ぶりであります。
銀行間で資金を取引するインターバンク市場も極めて不安定で、海外でのジャパン・プレミアムも急騰しています。
預金は流出し、海外でのドル建ての貸し出しは円安で膨れ上がってしまい、自己資本を株の急落でやられた日本の銀行は、貸し出しを減らすしかなく、貸し渋りを越えて、全国的な融資のひっぺがしといった状態になってきています。
そういう意味で、事態は完全に金融恐慌と言っていいでしょう。
この現実については、まだ一般企業では財務担当者しか知らないようです。
同じ企業、例えば不動産業のような今大変な状況にあるところでも、一般社員はまだそんなことは知らされていません。
財務担当者、社長、専務あたりは、真っ青になっています。
だから一般の人たちが「まあまあ大丈夫じゃないの」などと言って、なんとかやっているのですけれども、実態は大変恐ろしいところまできているのです。
格付けが高い企業でさえ、「資金繰りは大丈夫かな」と心配するくらいですから、格付けの低いほうの企業や金融機関は、正直言ってどうしようもないというところです。
預金者保護だけでは解決できないこの金融問題に対して今、いろいろな議論が出ているわけですが、私はまずこの金融の問題に対して、個別金融機関の問題なのか、システム全体の問題なのかを最初に見極める必要があると思います。
もしも問題が個別企業にあり、「全体は大丈夫だけれども、中にニ、三まずい銀行があります」という場合、このときはそのいくつかを潰し、経営責任を問い、潰れた金融機関にお金を預けている預金者を保護することで対応するのは、十分ありうる手法です。
実際にアメリカでも、全体はまったく大丈夫だという確証がとれたとき、いくつかの銀行を潰した例はあります。
そこの預金者に対しては、預金保険の上限一○万ドルまでしか保証しませんでした。
私が聞いた話では、そのような理由である銀行を潰したとき、そこの大口預金者の一つは、なんと慈善事業だったといいます。
その地域は非常に貧しい人が多く、彼らを救おうとして来た慈善事業が、その銀行にお金を預けて事業をやっていたのです。
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